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(a)他の保険制度との関係
船舶に関わるPL事故が発生した場合、船舶保険や建造保険など、PL保険以外の保険が関係してくる場合が多い。例えば、機器や船舶のみに損害が止まっている場合には、製品自体に生じた損害としてPL保険のてん補の対象から外れるが、船舶保険(第6種)によって損害がてん補される。
従って、これらの事情を踏まえ、それらの保険との関係を理解しておく必要がある。船舶を取り巻く主な保険とPL保険の関係については、巻末資料「船舶に関わる各種保険制度の比較表」を参照されたい。

 

(b)海外においてPL訴訟に巻き込まれるリスク
船舶の行動範囲、取引(転売も含む)の広域性を考慮すると、世界中の至るところで、造船所、舶用機器メーカーなどがPL訴訟を提起される可能性がある。特に、加害企業にとって厳しい法理や裁判運用がなされる米国などで訴訟を提起されると、高額な賠償金の支払いのみならず、訴訟に応ずる為の経済的・人的コストも発生することになり、企業にとって大きな負担としてのしかかってくる。
また、米国でPL訴訟に巻き込まれて、陪審員が企業側に悪意があったと判断すれば、実際に被害者が被った損害の100倍にもなる懲罰賠償金(注)を課せられることもあるが、この懲罰賠償金については、その性格上保険の支払い対象にならない(保険でカバーされたのでは懲罰的効果が失われてしまう)為、企業側の自己負担となる。
(注)懲罰的損害賠償金(punitive damages)
米国のPL訴訟において、加害企業の行為の悪性が高い場合に、加害企業に対する懲罰および再発防止効果を目的として、通常のてん補的損害(compensatory damages=被害者が現実に被った損害)の他に認められる損害、てん補的損害の100倍にもなることがある。

 

また、賠償金は保険でカバーされても、裁判に提出する資料を作成したり、被告企業として裁判に出廷する人的コストなどは自社負担となることも忘れてはならない。
従って、企業としてまず取り組むべきことは、必要な事故予防対策(製品安全対策)を講じ、これにより事故を未然に防止することである。ひとたび事故が起きた場合には、保険は、賠償金の資力確保や訴訟対応サポートの点において企業にとって大きな助けとなるが、これのみに頼ることには限界があることを十分理解しておくべきである。
なお、PL保険の保険料は、PLリスクの大きさ、頻度によって決定される。具体的には、業種、生産高、輸出先などに加えて、製造業者の実施する製品安全対策(設計上の安全対策、製造上の安全対策、指示警告上の安全対策)のレベルも考慮されることがある。この意味においては、適切な製品安全対策に取り組むことが、将来の保険料コストを低減させることにつながることもあり得る。

 

 

 

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